the happy few

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さらわれた午後

 四月七日。
 今日は始業式だった。クラス替えの発表にも慣れた、もう3回目だもの。去年仲良くしていた子とは大体離されて、やっぱりなと思った。中高一貫の長い長い六年間の三年目、先生たちはまだ私たちに、”まんべんなく”、仲のいい友達を増やしてほしいんだろうね。
 四月の教室のそわそわした感じが苦手だ。飛び交っているみんなの思惑がどこか透けて見えるようで。女の子の面倒くささを見せつけられる。自分自身そわそわしていると、自覚してしまうのも好きじゃない。
 始業式だから午前で終わりだったんだけど、部活があるからお昼も学校で食べた。ホームルーム終わりに、一緒にご飯を食べようと思ってYのいるC組に行った。去年は同じクラスだったから楽だったなあ、今年はお昼どうなるんだろう。新しいクラスで仲のいい子を作れるといいけれど。Yは友達作るの上手だからきっとそつなくやるんだろうな。そういうやつだ。そこがいいとこでもあるし。
 名字がア行の人って、いつも年度の初めは窓側の席になるからうらやましい。窓側の席は便利、窓枠のところを棚みたいに使えるから。先生たちもなんでか怒らない。Yはカ行だから、今年は窓側から二列目だった。Yの前に何人ア行がいるかで左右されるんだろう。
 ホームルーム後の教室には、午後の部活のためにお弁当を持ってきている子と、ただなんとなくたむろしているだけのそうでない子たちがいる。Yに声をかけようと思ったときにふと見えたあの光景、なんだったんだろう。
 初日なのにもうたくさん荷物が積まれた窓枠に寄りかかってた、髪が肩につくよりちょっと長いくらいの子。この2年間で見たことない。あんなきれいな子うちの学年にいたんだ。窓から入り込んだ日射しで輪郭がぼやけてて、絵になってた。カーテンが風で揺らいだとき、あの子の身体に半分くらいかかって、窓の外に連れ去られちゃうんじゃないかって。あの瞬間本気でそう思っていた。教室の喧騒からあまりに浮いていて、ちょっと気味が悪いくらい。教室を眺めていただけなのかな。ぼーっとしていた。
 こういうのが脳裏に焼き付く、ってことかな。こんなの初めてだからびっくりした。部活は何事もなく、いつも通り。中学最高学年だからしっかりしろって何回も言われてうんざりだったけど。今年ずっと言われるんだろうな。

「この前さ、昔の日記読んでたの」
「え、日記なんて書いてたんだ。えらっ」
「親が書けってうるさくて。そしたらあなたのことが出てきた」
「えーなんて?」
「うーん…窓の外に連れ去られそうって」
「は?」
「不思議だよね、まさか高校でずっと同じクラスになるとはねえ」
「ちょっと、話を進める気がないまま話するその癖やめなさい」